従来、がん組織とは、増殖能力が異常に高まったがん細胞がモノクローナルに増殖した結果、出来上がった病的な組織であると信じられていました。一方、近年の幹細胞生物学の発展により、骨髄内の造血細胞はもとより、脳神経や乳腺を始めとする多くの正常組織は、ごく少数の組織幹細胞を頂点としたヒエラルキーを持った細胞集団から構成されることがわかってきました。がん組織も、この性質を継承しており、ヒエラルキーの頂点にあるがん幹細胞と、その娘細胞たちからなる前駆細胞に近いがん細胞、さらに分化したがん細胞からなる細胞集団から作られていることになります。
がんは、DNAの病気です。組織幹細胞やそれに近い前駆細胞のDNAに傷がはいると、がん幹細胞になることがあると考えられます。がん幹細胞は、周囲にある正常細胞(ニッチ細胞といいます)を利己的にあやつって、自分自身が分裂増殖しやすい環境を作り出します。がん幹細胞が分裂して、がん幹細胞と分化したがん細胞になりますが、後者の分化したがん細胞は、一過性に非常によくふえ、大きながん組織を作ると考えられます。
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